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建設業の労災保険は下請け業者にも加入義務があるのか、疑問に思う方もいるかもしれません。特に、元請け業者が下請け業者と契約した場合は、後にトラブルにならないよう、必要な手続きと対応を把握することが重要です。この記事では、建設業での労災保険の適用範囲や下請け業者の加入義務、加入手続きなどを詳しく解説します。また、元請け業者が実施すべき下請け業者の管理ポイントもお伝えしますので、ぜひ参考にしてください。
さまざまな立場の人が協力して仕事を行う建設業は、労災保険の仕組みが複雑です。まずは、建設業における労災保険の基礎知識を確認しましょう。
下請け業者の作業員が現場で事故に遭った場合、適用されるのは元請け業者の労災保険です。労災保険は企業ごとに加入するのが一般的ですが、建設業では工事を一つの事業とし、現場全体を事業体とみなして元請け業者が労災保険に加入します。現場で作業する人であれば労災保険が適用されるため、元請け業者だけでなく下請け業者の作業員も対象です。そのため、下請け業者の作業員が自ら現場の労災保険を契約する必要はありません。
下請け業者の従業員のうち、事務所で働く営業担当者や事務員などは、現場の労災保険の適用外です。元請け業者が加入した労災保険は現場の作業員に限ります。そのため、現場で作業をしない事務員や営業担当者がいる場合は、会社単位で労災保険への加入が必要です。
労災保険には例外があることも知っておきましょう。そもそも労災保険は従業員(労働者)に適用される制度のため、社長、役員、一人親方(個人事業主)は対象になりません。ただし、条件を満たしていれば特別加入制度を利用できます。労災保険の特別加入制度は義務ではありませんが、万が一仕事でケガや病気を負った場合には治療費などが自己負担になってしまうため、できる限り加入するのが望ましいでしょう。
建設業では、現場を一つの事業とみなし、元請け業者が労災保険に加入するとお伝えしました。では、労災保険の加入に必要な手続きを見ていきましょう。
建設現場で労災保険に加入する場合、はじめに「保険関係成立届」を所轄の労働基準監督署へ提出します。提出期限は建設工事が始まってから10日以内のため、速やかに手続きを行いましょう。その後は「概算保険料申告書」を提出し保険料を納付します。労働基準監督署のほか、労働局・銀行・郵便局でも提出・納付が可能です。
万が一、労災保険への加入手続きが完了していないときに労災事故が起こった場合は、費用徴収制度が適用され、元請け業者から治療費等の全額か一部が徴収されます。
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労災保険の加入について行政機関から指導を受けたが、事業主が手続きを行わないケース ➡ 100%を徴収 |
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労災保険の加入について行政機関からの指導を受けていないが、工事開始から1年を経過しても手続きを行わないケース ➡ 40%を徴収 |
参考元:厚生労働省|労働保険の成立手続
参考元:厚生労働省|労災保険未手続事業主に対する費用徴収制度の強化について
労災保険の加入手続きが済んだら、工事現場に労災保険関係成立票を掲示します。下記の項目を掲示してください。
なお、労災保険関係成立票の掲示は元請け業者の義務になっており、縦25cm以上・横35cm以上の規格があります。
参考元:厚生労働省|労働保険の保険料の徴収等に関する法律 施行規則の一部を改正する省令案の概要(労災保険関係成立票の改正)
社長、役員、一人親方などの個人事業主は特別加入制度によって労災保険に加入できます。ただし、社長・役員に関しては企業規模の条件を満たした中小企業が対象であり、建設業は「労働者数300人以下」が条件になっています。加入要件や手続きは、以下の表をご確認ください。
| 区分 | 加入要件 | 申請手続き |
|---|---|---|
| 中小事業主 |
・雇用する労働者と労災保険の保険関係が成り立っていること ・労働保険に関する事務処理を労働保険事務組合に任せていること |
労働保険事務組合を通じて「特別加入申請書(中小事業主等)」を提出 (所轄の労働基準監督署長を経由して提出し、労働局長の承認を受ける) |
| 一人親方などの個人事業主 | ・特別加入団体の構成員であること |
特別加入団体を通じ「特別加入申請書(一人親方等)」を提出 (所轄の労働基準監督署長を経由して提出し、労働局長の承認を受ける) |
参考元:一般社団法人 全国労働保険事務組合連合会|労災保険の特別加入制度
JCCA滋賀(一般社団法人 滋賀建設組合)では、建設業の労災保険に関する手続きをサポートしています。労働基準監督署への事務手続きや、保険料の計算・納付など複雑な事務処理の委託も可能です。詳しくはホームページをご確認ください。
労災保険料は、賃金総額に保険料率をかけて算出するのが一般的です。しかし、建設業では正確な賃金総額を把握しづらいケースがあるため、賃金総額算定の特例が設けられています。この特例では、請負金額に労務費率を乗じて賃金総額を算出し、その金額に保険料率をかけて保険料を算出します。2025年度の労務費率と労災保険率は以下の表をご確認ください。
| 事業の種類 | 労務費率 | 労災保険率 |
|---|---|---|
| 水力発電施設・ずい道等新設事業 | 19% | 34/1,000 |
| 道路新設事業 | 19% | 11/1,000 |
| 舗装工事業 | 17% | 9/1,000 |
| 鉄道または軌道新設事業 | 19% | 9/1,000 |
| 建築事業(既設建築物設備工事業を除く) | 23% | 9.5/1,000 |
| 既設建築物設備工事業 | 23% | 12/1,000 |
| 機械装置の組立てまたは据付け事業 |
・組立てまたは取付けに関するもの:38% ・その他:21% |
6/1,000 |
| その他の建設事業 | 23% | 15/1,000 |
建設業の労災保険に関して、元請け業者が下請け業者とのトラブルを防ぐためには、ポイントを押さえた管理体制が重要です。万が一の事故のための対策や、現場での事故を防ぐ方法を確認しましょう。
再下請負通知書は、下請け業者が工事前に作成する書類の一つです。元請け業者にとっては下請け業者の把握や社会保険への加入を確認するために重要な書類になります。下請け契約をしたすべての業者に作成してもらう必要があるため、元請け業者は漏れなく再下請負通知書のフォーマットを渡し、工事前に提出してもらいましょう。
2020年に一部改正された建設業法施行規則により、現場に入るすべての作業員の名簿作成が必須になりました。作業員名簿は、誰が建設現場に入っているのかを把握し、労災が発生したときの緊急連絡対応に使用するために重要な書類です。多くの場合、作業員を雇用する下請け業者がそれぞれ作成し、まとめて元請け業者に提出します。
労災加入証明書は、労災保険への加入を証明する書類です。先述のとおり、現場で働く下請け業者の作業員には元請け業者が加入している労災保険が適用されます。ただし、下請け業者として一人親方などの個人事業主が現場で作業する場合は、元請け業者の労災保険は適用されないため、特別加入手続きが必要です。もしも、下請け業者の作業員が労災保険に未加入の場合は、手続きをするよう促しましょう。
高度な技術が求められる建設現場では、常に事故や災害のリスクがあるものです。そのため、「安全第一」の考え方を重要視しなければなりません。現場の安全管理体制は、元請け業者と下請け業者が協力して構築することが必要です。
元請け業者は、現場全体の安全計画を立て、定期的な安全ミーティングを行うことで現場の安全意識を高めます。また、作業内容ごとに安全対策を検討し、下請け業者に実行を指示するのも仕事です。下請け業者は自社の従業員に安全教育を行い、元請け業者からの指導を受けて現場で安全対策を実践します。さらに、安全管理者や安全衛生責任者を配置し巡視を行うことも、安全管理体制の強化に有効です。
建設現場で事故やトラブルを防ぐためには、作業員の安全衛生教育が欠かせません。雇い入れ時には、使用機材や作業手順、作業中に起こり得るリスクなどを知らせ、現場に入る前に安全に関する基礎知識を習得してもらいます。現場に入ってからは、緊急時の対応など、より具体的な安全対策を伝え、実際の作業に役立てられるようにします。また、作業が終了した後には、作業中の注意事項や安全管理項目を振り返ることも大切です。このような安全衛生教育が、作業員の安全意識の向上につながります。
建設業の労災保険は、現場で作業する下請け業者の従業員については、元請け業者の保険が適用されるため、下請け業者が自ら加入する必要はありません。一方で、現場以外で仕事をする従業員や個人事業主などは適用対象外となるため、それぞれ労災保険に加入する必要があります。元請け業者は工事開始前にこうした点をふまえて管理体制を整え、万が一に備えておきましょう。
JCCA滋賀(一般社団法人 滋賀建設組合)では、建設業の労災保険に関して、加入手続きや保険料の計算・納付などを事業主の代わりに行います。労災保険の事務手続きにお困りの方は、ぜひご相談ください。